静岡市葵区清沢地区はオクシズと呼ばれる静岡市山間部の一帯に位置し、豊かな自然に恵まれた地域だ。この清沢地区の山中で面積1ha以下の小さな太陽光発電施設が稼働を始めたのは昨年8月のことだった。それから1年も経たずに今度は道路を挟んだ下側山地で別の事業者によって再び面積が1ha以下の太陽光発電施設の建設計画が持ち上がったことから地域に懸念が広がっている。
事業者「届け出れば建設していいんだ」
「開発行為が1ヘクタール未満ということであるために、届出を提出することで工事が可能となり、山の木が伐採されて山肌があらわになったところへソーラーパネルが並べられました」と清沢地区の自治会連合会が今年6月に静岡市の田辺信宏市長に提出した要望書は記している。地域住民は昨年8月から稼働を開始した太陽光発電施設の建設にあたっても山が荒れて土砂崩れなどが起きることを懸念したが、1ha以下の開発手続きは森林法上、行政の許可の対象ではないため、事業者は届け出をして工事を予定通りに進めて稼働に至った経緯があった。今回、新たにその近くに再び1ha以下の太陽光発電施設を建設する計画が持ち上がったことから地区全体の総意として市長に要望書を提出する事態となったのだ。
「だれが見ても杜撰な工事。山の保水力が失われれば土砂崩れなどの災害につながるが、業者に言っても届け出ればいいんだということで一方的に建設が進んでしまった」と地元の男性は話した。太陽光発電の建設に当たっては独自に規制条例を設置している自治体も少なくないが、基本的にメガソーラーの開発を対象とする規制なので、小規模の太陽光発電施設については対象外。また、そもそも静岡市には太陽光発電の規制条例はなく、太陽光発電の開発についてはガイドラインを策定して今春から事業者に対応する取り組みを始めたばかりなので、市内の太陽光発電施設の実態について市はほとんど把握していないのではないかと思われる。
昨年8月から稼働を開始した清沢地区の太陽光発電施設は、黒俣の大イチョウとして知られる県天然記念物のイチョウから県道32号線を西進した県道沿いの山中の急な斜面にある。周囲は樹木が生い茂って鬱蒼としているが、太陽光発電施設の場所だけ伐採されて、県道32号線の道路を見降ろすように斜面にソーラーパネルが設置されている。今回、新たに建設が予定されているのは県道32号線の下の山の斜面で、建設されると県道32号線を挟んで上側と下側の山の斜面にソーラーパネルが並ぶことになる。
施設建設後にさらに転売?
この土地は元の所有者から静岡市内の事業者に売却され、静岡市内の事業者から県道の上側の土地と県道の下側の土地の2つに分けて、大阪の2つの事業者に売却されている。県道の上側の土地を購入した事業者が太陽光発電施設を建設し、県道の下側の土地を購入した事業者が今回、新たに建設を予定しているということなのだが、県道の上側の土地は太陽光発電施設が建設された後、売却されてHyundai Renewable Lab Japanという会社が所有し同社の施設として昨年8月から稼働している。Hyundai Renewable Lab Japanは昨年2月に設立された会社で、本店所在地や代表者がHyundai Japanと同じなので実質的にHyundai Japanなのでないかと思われるが、電話をしても取材に応じないため詳細は不明だ。ちなみに韓国のHyundai Heavy Industries(現代重工業)傘下のHyundai Energy Solutionsは太陽光電池のパネルメーカーとして知られている。
経済産業省資源エネルギー庁のサイト「なっとく¦再生エネルギー」に掲載されている今年4月30日時点における事業計画認定情報を見ると、Hyundai Renewable Lab Japanは静岡市内の太陽光発電施設のほかに大阪市内でも太陽光発電を進めているようだが、こちらは今年4月30日時点では運転開始前とのことなので、静岡市内の施設が同社の日本での最初の太陽光発電施設の可能性もある。どのような取り組みをしているのか取材に応じないため不明だ。清沢地区の住民によると、新たな太陽光発電施設の設計会社は、Hyundai Renewable Lab Japanの施設を設計した会社と同じとのことで、「なんとなくつながっている印象を受ける」との声も漏れる。また、「太陽がそんなに当たるとは思えない山間の場所になんで太陽光発電を建設するのだろう?」との疑問の声も。市長に提出した要望書は「簡易な工事でソーラーパネルが設置されようとしている」とし、「治山工事や法面補強などの道路工事を行わずに計画を進めれば、自然災害を助長する危険が伴う」と警鐘を鳴らしている。
(編集部)