コロナ禍の中、離婚も婚姻も減少…一方で女性がのぞまない出産リスクが増大?

 感染が再び拡大している新型コロナウイルス。テレワークや不要不急の外出を控えることが呼びかけられ、仕事を含めて自宅中心にシフトするなど生活のあり方そのものに影響は及んでいる。こうした生活の変化は婚姻や離婚、出生にどのような変化をもたらしているだろうか?

社会の危機と出産は関係している?

 厚生労働省が7月に発表した今年5月の人口動態統計の速報値は離婚件数の減少が顕著だ。メディアはコロナ離婚を騒ぎ立てるが、実際は離婚件数が今春以降、前年と比べて大きく減少した。「離婚件数は年度末の3月が多くなり、4月に減少し5月は横ばいというのが例年の傾向。昨年は平成のうちにということで4月も離婚件数が多かった」と厚労省人口動態・保健社会統計室。それが今年は4月に続いて5月の離婚件数も速報値は前年より約5000件程度減って依然として減少傾向が続いている。「数字は役所に届ける数なので、コロナが落ち着いてから離婚届けを出そうと考えている人が多いのかもしれない」と人口動態・保健社会統計室は指摘する。一方、婚姻件数も今年は2月をピークに急減し減少傾向が続いている。こちらは巷間言われているコロナ禍で先行きへの不安が増す中、カップルが結婚を先延ばしにする傾向が数字にあらわれていると言えそうだ。

【人口動態統計速報値のグラフ令和2年5月分】
赤線が今年5月、青線が昨年5月=厚生労働省統計資料より

 少子高齢化が進んでいる日本にとってコロナが出生数にどう影響するかは大きな問題だ。財務省の財務総合政策研究所は「新型コロナウイルスの感染拡大と妊娠・出産への影響」と題したレポートを今年7月に公表している。このレポートによると、1965年にニューヨークで大停電が起きた時、例年を上回る出産が報道されたことから、危機になると出生数が増えてベビープ―ムが到来するという説が生まれ、社会危機とベビーブームとは関係があるとのイメージが世の中に浸透したという。しかし、実際にはニューヨークの大停電時の出産報道は誤報で出生数は増えていなかったという。

なぜ今、緊急避妊薬なのか?

 社会的な危機と出産の関係は様々な要素が複雑に絡み合い、過去のケースにおいても出生数が増えた時もあれば減った時もあるのが実態のようだ。レポートでは、現在のコロナ禍において、アメリカで30万~50万件におよぶ出産減を見込む予測があることや、ヨーロッパでのインターネット調査では出産をあきらめたり、遅らせる人の割合が若い世代で特に多かった結果を紹介している。

 性に関する啓もう活動をしているNPO法人ピルコン代表の染矢明日香氏や♯なんでないのプロジェクト代表の福田和子氏らが代表を務める「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」は7月、厚生労働大臣に緊急避妊薬を薬局で処方箋なく入手できるように求める要望書を提出した。緊急避妊薬(アフターピル)は性交後に避妊を可能にする薬だが、効果的に使用するには性交後72時間以内に使用する制約があり、また、時間が早いほど効果が高いとされる。国内では薬局で入手する場合も医師の処方箋が必要なことから服用には一定のハードルがある。

毎日、彼がいて断りにくく…

コロナで自宅でいっしょに過ごす機会が増えた結果…

 ♯なんでないのプロジェクトとNPO法人ピルコンは今年5月に新型コロナウイルスと妊娠不安をテーマにしたウェブ調査を実施し、約1500人より回答を得て調査結果をネットに公表した。その調査レポートには「毎日彼が家にいて、すべて家事をこなしてくれている。そうなると性行為を求められて断りにくくなった」(20代女性)や「配偶者からストレスがたまっているので相手をしろと責められ性行為を断ることができなかった」(30代女性)、「コロナウイルスでアルバイトがなくなりお金が必要なので援助交際、パパ活などをしていた」(10代女性)などコロナ禍における性行為の一端を伺わせるコメントが紹介されている。

 調査結果の詳細は公表されているレポートを見ていただきたいが、緊急避妊薬の要望書提出の背景には、コロナ禍で女性の妊娠不安が増えていることがあるようだ。カップルや夫婦が自宅で一緒に過ごす機会が増える一方、女性にとって妊娠に積極的になれない状況があることから、不用意に性行為に至ってしまったり、性行為をした後に妊娠をするのではないかと不安を感じるケースが増えているようだ。また、コロナで生活がたちいかなくなるという経済的な背景の実態も見逃せない。

 日本の出生数がコロナによりどう変化していくのか、その具体的な変化を知るにはなお時間を要するが、現状を見る限り悲観的な要因の方が多いと言わざるを得ない。財務総合政策研究所のレポートも「感染拡大による経済状況の悪化やそれに伴う不確実性によって、トータルで見た出生数の水準は低下する可能性が懸念される」と指摘している。

(内藤昌)

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