洒落たタバコ…ではなくスティック粉末茶  大井川鐵道に登場したチャバコとは?

 Chabacco(チャバコ)をご存じだろうか?外観はタバコの箱のようだが、開封するとスティックの袋にお茶の粉末が入っていて、水かお湯があれば手軽にお茶が飲めるという商品。喫煙が歓迎されない昨今、あえてタバコに模したのはタバコではなく健康的なお茶を持ち歩いて嗜好しようというメッセージなのか? このチャバコがSLや「きかんしゃトーマス号」などで知られる大井川鐵道の4駅に今春、登場した。

KAWANEホールディングスとの協働開発

タバコを思わせる箱にスティックタイプの粉末茶が入っているチャバコ

 Chabacco(チャバコ)は静岡県掛川市に本社がある株式会社ショータイムが商標登録している商品だ。同社を紹介した2019年3月の文藝春秋の記事によると、代表の森川翔太氏は掛川市の隣りの袋井市出身。大学卒業後、東京で広告関係の仕事をし、その後、「世界に日本のいいものを紹介したい」と独立して会社を設立した。アメリカでお茶が喜ばれた体験から茶の世界に飛び込み、世界農業遺産の茶草場農法で生産された掛川茶を広く若い世代にアピールしようと手軽に飲めるスティックタイプの粉末茶「チャバコ」を考案したという。チャバコには「世の中を“茶化”そう」というコンセプトがあるそうで、粉末茶をタバコの箱に模した洒落たデザインの箱に入れ、販売もタバコの自販機かと思わせる自販機で販売する凝りようだ。

 チャバコの自動販売機はこれまで株式会社ショータイムの本社のある掛川市内で設置されてきたが、今春、大井川鐵道の4駅にも登場した。しかも4駅で販売されているチャバコは大井川鐵道の車両や手旗など鉄道用具の写真を箱にあしらい大井川鐵道沿線で栽培されている川根茶を粉末にした大井川鐵道バージョン。大井川鐵道は掛川市の隣りの島田市の金谷駅と本川根町の千頭(せんず)駅の約39.5キロを結ぶ本線と、千頭駅と静岡市葵区の井川駅の25.5キロを結ぶ井川線の2つの路線を運営している。本線にはSLや「きかんしゃトーマス号」が走り、井川線では日本一の急勾配をアプト式と呼ばれる方式で赤いトロッコ電車が走っている。大井川鐵道の駅にチャバコの自販機が設置された経緯を知りたいと思い問い合わせると「主催はKAWANEホールディングス となります」との返事がかえってきた。なんでも大井川鐵道と株式会社KAWANEホールディングスが初めて協働開発した商品なのだそうだ。株式会社KAWANEホールディングスとはどんな会社なのだろう?

ゾーホ―ジャパン元代表が地域再生に挑む

 株式会社KAWANEホールディングスのオフィスは、大井川鐵道の千頭駅から大井川にかかる川根大橋を渡った先にあった。オフィスといっても少し大きな民家といった風情で看板が掛かっていなければ会社とはわからない。迎えてくれた広報室室長の神東美希さんによると今年1月に設立された会社だという。「ゾーホージャパンの代表だった迫が2019年12月にゾーホージャパンを退任して設立したのです」と言う。ゾーホージャパン(横浜市)は、インド・チェンナイに本社を置くIT企業ゾーホーコーポレーションの日本法人だ。株式会社KAWANEホールディングスの社長の迫洋一郎氏はゾーホージャパンの設立を手がけ、ゾーホージャパンの代表を務めてきた。国際的なIT企業の日本法人の代表だった迫氏が大井川の山深い川根本町で起業したのはどういうわけか?

大井川鐵道の車両をデザインした4種類のチャバコ

 「ゾーホージャパンは2017年に川根本町にサテライトオフィスを作りました。その時の代表が迫でした。以来、川根本町と関わりをもつようになり退任して地方創生を社訓にする会社をつくりました」と神東さん。株式会社KAWANEホールディングスのウェブサイトを開くとまず飛び込んでくるのは「事業を通じて地域課題を解決する」という経営理念だ。「魅力的な仕事があれば人は出ていかないという信念があり、魅力的な仕事を生みだしていけばいいと迫はいつも言っています」と神東さんは話す。川根本町は大井川の山間にある人口約6600人の小さな町。かつてこの地域には本川根町、中川根町、川根町があったが、平成の大合併を経て本川根町と中川根町が合併して川根本町となり、川根町は島田市に編入された。川根茶の産地として知られるが、若い世代の流出にともなう人口減少は喫緊の課題で高齢化も進んでいる。サテライトオフィスを通じて川根本町と関わってきた迫氏が地域の課題に挑むためにつくった会社が株式会社KAWANEホールディングスなのだ。

国内フランチャイズ第1号に

大井川鐵道の千頭駅前に設置されているチャバコの自動販売機=静岡県川根本町

 大井川鐵道の4駅で販売を開始したチャバコは、KAWANEホールディングスのスタートアップとも言える事業。同社取締役として参画している株式会社経営参謀(東京都新宿区)の新谷健司氏がチャバコに興味をもち、ショータイム代表の森川翔太氏と交渉して国内フランチャイズ第1号としてKAWANEホールディングスと大井川鐵道の協働開発に乗り出すことになったという。そのチャバコは川根茶の粉末スティックで、川根本町の事業者によって製造され、大井川鐵道の千頭駅、塩郷駅、奥泉駅、奥大井湖上駅に設置した自動販売機で販売されている。箱のデザインが4種類あり、一つの箱に1グラムのスティック粉末茶が8本入っていて値段は消費税込み600円。開封すると大井川鐵道の車両の写真がついた大鐵カードも入っている。カードには「奥泉駅前の縄文モニュメントの写真を撮ろう」など沿線をめぐるミッションが記されていて、観光を楽しみながら様々な特典を受けられる仕掛けがほどこされているようだ。

 新型コロナウィルスの影響で大井川鐵道でも運休やイベントの中止が相次いでいる。KAWANEホールディングスにとって厳しいスタートとなったかもしれないが、今後、どのような展開を見せるのだろうか?大井川鐵道の4駅で販売されている4種類の箱のチャバコはそれぞれ限定2000個ずつ。売り切れたら新しいデザインの箱のチャバコを販売する予定だ。売上の一部は新型コロナウィルス感染症対策として関係機関に寄付するという。

 (三好達也)

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