除夜の鐘はNHKの番組で普及? 小さい子供や高齢者も撞く除夕の鐘

「除夜の鐘がうるさいと言っているのは誰だ!」。昨年末、除夜の鐘をやめる寺院のニュースが流れるとネット上にこんなコメントが飛び交った。除夜の鐘をめぐりネットではかねてより話題になってきたが、最近は「除夜の鐘を不愉快に感じる人はどういう人?」「一部の人の抗議でなぜ除夜の鐘をやめてしまうの?」といった声が目立つ。なぜ寺院は除夜の鐘をやめるのだろうか?

静岡県牧之原市の大澤寺(だいたくじ)。田沼意次が築城した相良城の廃材が本堂に使われている由緒ある真宗の寺院だ。大晦日の午後に訪れると境内は賑わっていた。大勢の人が列をつくり順番に鐘楼に上がって鐘をついていく。この寺院は除夜の鐘の代わりに大晦日の昼に鐘をついていることで知られている。昼間ということで境内には小さい子供を連れた家族やお年寄りの姿も多い。和気あいあいとした雰囲気だ。

静岡県牧之原市にある大澤寺

大澤寺の鐘は昭和18年に軍に供出されてなくなったが、檀家がお金を出しあって復活し昭和30年から除夜の鐘をついていたという。しかし、クレームが出たことから大晦日に鐘をつかなくなった。檀家の思いがこもった鐘を大晦日につかないのは申し訳ないと、父親を継いだ現在の住職、今井一光さんが檀家と相談し、近隣に配慮して昼間に鐘をつく除夕(じょせき)の鐘として復活させて6年になる。

年に1回だけの除夜の鐘にクレームを言う人が本当にいるのだろうか?住職の今井さんに聞いた。「クレームがあったことは本当です。私もそれまでは除夜の鐘がうるさく感じられるとは思いもしませんでした。生活が変わって今は元日から働く人もたくさんいますから」と話した。ただ、鐘をつくのを昼にしたのはクレームを受けたことだけではなく、檀家の負担を軽減することも理由にあったようだ。寺院の運営は檀家に支えられている。「もともとお寺で鐘をつくのは時刻を知らせるため。除夜の鐘が広く行われるようになったのは実は昭和になってからなんです」と今井さんは言う。

大晦日の午後に行われる除夕の鐘

2年前の記事になるがデイリー新潮の「『除夜の鐘』を昼に撞くお寺が増えている 大晦日の深夜でないと困るのはNHKだけ?」(https://www.dailyshincho.jp/article/2018/12300555/?all=1&page=1)は、雑誌「月刊住職」の特集記事を紹介したもので、除夜の鐘の背景と寺院の事情が詳しく書かれている。詳しくは記事を読んでいただきたいが、梵鐘の騒音問題は昭和45年に訴訟判例があり、その頃からすでに騒音とする声があったようだ。また寺院が除夜の鐘をやめるのは騒音問題だけではなく、檀家が高齢化して深夜の鐘撞きに行けなくなったことも理由にあるという。しかし、そもそも今日、広く普及している除夜の鐘は、実は昭和2年にNHKラジオの『除夜の鐘』が上野・寛永寺で生中継したことが契機となって全国に広まったものだという。となると、メディアが仕掛けたイベントのようなもので、クリスマスやハロウィーンとたいして変わらないようにも思えてくる。それ以前に日本全国の寺院で除夜の鐘を撞いているということではなかったようなのだ。

寺院は檀家と結びついて地域の宗教的なネットワークを担っている。寺院の行事をどのように行うかは、寺院と檀家が地域の事情に応じて判断している。深夜ではなく昼間に鐘を撞く除夕の鐘はある意味「和をもって尊しとなす」といった日本古来の精神の現れなのかもしれないと、大晦日の空に響く鐘の音を聞いて思った。
(フリーライター 三好達也)

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