【政治記事】反・小沢一郎『メディア工作グループ』/竹下登・元総理が作った「三宝会」を振り返る

 およそ20年ほど前の話である。

 橋本龍太郎内閣の時代だ。

 1997年11月19日の参議院・本会議で、著書『わが友・小沢一郎』(幻冬舎/2009年)、『小沢一郎との二十年 : 「政界再編」舞台裏』(プレジデント社/1996年)でも知られる平野貞夫氏が「三宝会」に関して質疑をしている。少々、長いが、大事な内容の質疑なので「国会会議録検索システム」から平野氏の発言を引用したい。

「橋本総理の民主政治の基本に対する考え方についてお尋ねいたします。

 総理は、十月三十日の衆議院予算委員会で、田中慶秋氏が指摘した三宝会の問題点について、重大な答弁をしております。

 三宝会は、この情報化時代に、大手の新聞社や通信社五社、全国ネットのテレビ四社、大手の出版社五社から、合わせて三十人の第一線の有名ジャーナリストをネットワークし、個人会員に新旧の内閣情報調査室長と五つの利権官庁の事務次官OBを参加させ、三十五の法人会員で構成しています。

 元首相を最高顧問に、事務局をイトマン事件で絵画取引を行った画廊に置いています。世話人の中には、情報操作のプロと言われている人物もいます。趣旨書には、相互に円滑な人間関係を築き上げ、職域を超えて足らざるところを補完して飛躍しようという意味のことが書かれています。」

 「記者クラブ」の問題は比較的、認知度が高いと思われるが、「三宝会」のほうは知らなかったという方もいるかもしれない。政治家・小沢一郎、追い落としの、広い意味での「共同謀議」グループと言えそうだ。「世話人の中には、情報操作のプロと言われている人物もいます」という平野氏の発言も鋭い。「三宝会」を指して、舌鋒鋭く「秘密結社」と言い切る人もいる(筆者はそこまでは思わないが)。

 平野貞夫氏の参議院での質疑の引用に戻ろう。

「橋本総理の答弁は、そういう方々が、ともに集まり、それぞれ切磋琢磨されることが悪いとは私は思いませんというものでした。

 なぜ、私がこのことにこだわるのか。それは我が国の民主政治の根幹にかかわる問題が潜んでいるからであります。確かに、投票率の低下傾向は深刻な問題です。しかし、投票率の向上は国民の政治意識の向上という質を伴うべきであります。

 特定の政治支配をねらう人たちが三宝会のような組織を利用してやわらかく情報操作を行えば、投票率の向上はもちろん、当選、落選、さらに政界や財界の動向にも大きな影響を与えることになりかねません。最近、それに疑わしい現象を感じてなりません。それが不況、経済危機と重なると何が起こるか。私たちは、昭和のある時代に報道の公正さが失われ、我が国の議会政治を崩壊させたファシズムを体験したはずです。

 総理、私が危惧しますのは、三宝会のような組織に対して民主政治の原理を崩すものと感じない人たちが大勢いるという我が国の現実でございます。また、総理大臣を経験した方がこういう組織にかかわっていること自体問題であり、この国をどうしょうとなさるのか、国家社会に対する見識を疑うものであります。橋本総理、このような観点から、三宝会についてどのような御見解をお持ちか、改めてお伺いします」

 平野氏は、「元首相を最高顧問」、「総理大臣を経験した方がこういう組織にかかわっている」とだけ語り、人物名を述べていないが、竹下登元総理のことである。平野氏は(なにか理由があったのだろうか)名指しはしなかった。

 また、「特定の政治支配をねらう人たちが三宝会のような組織を利用してやわらかく情報操作を行えば」という発言の危惧の念を表明している。「やわらかく情報操作」を行えばという表現は文字通り、オブラートに包んだやわらかい表現だが、「本気で情報操作」を行えば、何も知らない一般国民の世論など、簡単に誘導できてしまうというエグい話である。どのように誘導できてしまうのか。ずばり、反・小沢一郎へと誘導できてしまう。メディアは三宝会で<結託>していたのである。

 当時の橋本龍太郎総理大臣は、平野氏の質疑に対して、以下のように返答している。

「どのような見解をと言われましても、私自身メンバーでありませんし、どういう会合なのかわかりませんだけに困ってしまいますが、私は、私的な立場で各界におられる方々が広い視野での判断、また公正、客観的な考え方を得ることを目的とし、自由な意見交換をされる勉強会だと、そのように認識いたしております」

ここで、簡単な時間軸で整理をしておこう。

1 「週刊ポスト」(小学館)が1997年10月20日・発売号の政治特集で、竹下登元総理の「三宝会」についてどうやら触れた模様だ。

2 同年10月30日。衆議院・予算委員会で田中慶秋氏が「週刊ポスト」の「三宝会」報道に基づき、質疑を行う。

3 翌日、10月31日に、毎日新聞と熊本日日新聞社が小沢一郎サイドの動きとして記事化。

4 (既に引用した)平野貞夫氏の質疑が、同年11月19日に参議院で行われる。

 当時の温度を知るためにも、新聞記事を2つほど引用してみたい。

                  *

新進党の小沢一郎氏サイド、竹下登元首相へ宣戦布告?

1997.10.31 東京朝刊 2頁 2面 (全270字) 

 新進党の小沢一郎党首に近い田中慶秋衆院議員が30日の衆院予算委員会で、竹下登元首相が最高顧問を務める勉強会「三宝会」を取り上げ、「杉田和博内閣情報調査室長が会員となっているのは問題だ」などと追及。橋本龍太郎首相は「仕事の性質上、情報の得られる場所で意見を聞くことが悪いことだとは思わない」などと答えた。小沢氏は今年8月、加藤紘一幹事長ら「自社さ」派の自民党執行部の更迭を求め、恩しゅうを超えて竹下氏と極秘会談。竹下氏は結局、応じなかった。田中氏の質問を、小沢氏サイドの「竹下さんに対する宣戦布告」(新進党5役の一人)と受け止める向きもある。

毎日新聞社

                  *

「宣戦布告?」という表現や、「受け止める向きもある」という表現など、バッサリと言い切らない、生煮えな記事ではある。それでも、形にしただけでも偉いと褒めておいたほうがいいのだろうか。

                  *

竹下氏と再び対決姿勢示す 小沢氏

1997.10.31 朝刊 朝二 (全216字) 

 新進党の小沢一郎党首が自民党の竹下登元首相への対決姿勢を示し始めた。保保連合の実現に向けて竹下氏との関係修復を図り、動きに期待していたが、働き掛けが奏功せず、保保路線はとん挫。「竹下氏は連携の窓口にならない」(小沢氏側近)と判断したためだ。

 三十日の衆院予算委員会集中審議で新進党議員が、竹下氏が最高顧問を務める財界人や報道関係者らの任意団体「三宝会」問題を取り上げ、追及したのも、そうした小沢氏の姿勢の表れと受け止められている。

熊本日日新聞社

                  *

こちらははっきりと、「竹下氏と再び対決姿勢を示す 小沢氏」と言い切っている。

                  *

 田中慶秋氏の国会での具体的な追及を、ある程度、バッサリとカットしながら引用したい。

○田中(慶)委員 (略)橋本総理、お伺いいたしたいのは、週刊ポストの報道によりますと、ことしの六月に発足した、竹下元総理を最高顧問とし、マスコミ界や第一線のジャーナリストを中心とする三宝会という組織、任意団体、これについて総理は御存じでしょうか。

○橋本内閣総理大臣 大変申しわけありませんが、私は、実はその週刊ポストの記事自体を見ておりませんし、それからその記事の内容がどのようなものか存じませんけれども、今、とっさに心当たりがございません。

(中略)

○田中(慶)委員 (略)この三宝会の問題点は、有名なマスメディアの第一線で活躍している幹部を組織的にそろえ、国民に大変影響力を持っている人たちが特定の政治グループと一緒になって、円滑な人間関係をつくり、職域を超えて足らざるところを補完しようということであります。近代社会、まともな議会政治で考えられない、マスコミを利用した、民主政治に似せた政治支配の発想だと思いますが、総理、どのようにお考えでしょうか。

○橋本内閣総理大臣 私は、マスコミの皆さんもまた情報を必要とする職種の一つだと存じます。仮に、議員の御議論のように、情報の交換というものがここで行われた場合に、その情報の交換というのは悪なのでしょうか。そして、マスコミの方々も情報を提供される、報道、表現の自由という範囲の中で御自分たちも取材をされる、それをしも問題視しなければいけないことでありましょうか。

 私は、少なくとも、今議員から配付をされました資料の趣旨書に目を通しまして、非常に素直にこれを読んで、なぜ、また私に御質問があるのか自体がよくわかりません。

○田中(慶)委員 (略)この三宝会というものがどんな組織でできているか、今から申し上げましょう。

 朝日新聞の方五人、毎日新聞が三人、読売、共同通信ともに三人、日本テレビ二人、フジテレビ一人、テレビ朝日一人、文藝春秋社三人、講談社二人、プレジデント社一人、選択出版社一人、朝日出版一人。それぞれ重要な人でありますが、あえて名前を申し上げますと、共同の後藤さん、あるいは読売の高橋さん、日経の芹川さん、朝日の佐田さんたちが世話人になっているわけであります。そして、このマスコミ関係が全員、オピニオンリーダーとして政治報道、世論操作あるいはまた世論形成にかかわるマスコミ幹部の顔をそろえているわけであります。

(中略)

○田中(慶)委員 (略) 橋本総理、この会のもう一つの重大な問題は、よろしいですか、渡した資料にもありますけれども、個人会員に内閣情報調査室長杉田氏が参加しております。あるいはまた、前の大森義夫氏も参加をしております。内閣に関係しております総理として、このことをどう思いますか。

<この追及に対して、国会で声が飛び交う>

○橋本内閣総理大臣 私は、彼らが個人として、まず第一に……(発言する者あり)

○松永委員長 御静粛に願います。(発言する者あり)御静粛に願います。(発言する者あり)御静粛に願います。やかましいのはその付近だ。御静粛に願います

○橋本内閣総理大臣 まず第一に、私は、個人として……(発言する者あり)

○松永委員長 今の静粛でない発言は困ります。(発言する者あり)注意した後に君は発言しているね。御静粛に願います。(発言する者あり)御静粛に願います。

 総理大臣、お願いします。

                   *

 ここで先に触れた毎日新聞の記事の話へとつながる。

「杉田和博内閣情報調査室長が会員となっているのは問題だ」などと追及。橋本龍太郎首相は「仕事の性質上、情報の得られる場所で意見を聞くことが悪いことだとは思わない」などと答えた。

 という内容だ。

                   *

 参議院で三宝会について追及していた平野貞夫氏によれば、三宝会は「2009年(平成21年)に政権交代が行われるまで続いた」とのことだ。小沢一郎の政治手腕による鳩山民主党政権の誕生のタイミングである(Wikipediaの情報による)。

                   *

 果たして三宝会は本当に消えてなくなってしまったのか?

 世話人であった共同通信社の後藤謙次氏などが、『報道ステーション』(テレビ朝日)などのニュース番組にぬけぬけと出演している現状をみると、まだ、三宝会あるいは、三宝会のネットワークは続いているのではないかという疑念もわいてくる。

 司法・立法・行政が、いわゆる三大権力だ。

 その次に考えられる第4の権力が大手マス・メディアといえるのではないか。 日本のマス・メディアは、英単語でいうところの「ウォッチドッグ=番犬」、要するに、「権力の監視役」という役割を本当に果たせているのだろうか。

 政府がおかしなことをやりだしたら、しきりに「ワンワンワン!」と吠え立てるのが、本来的な意味でのメディアの役割であるはずだ。

 なお、「世界報道自由度ランキング」では、民主党政権下の2010年にはランキング11位に上昇していた。だが、自民党政権下の2015年には61位という先進国の中では極めて低いランキングに変化している。

 それ以降、自由度がもとに戻ったという話は特に聞かない……。

 竹下登元総理が残した「三宝会」。

 三宝会が、「きれい」なのか「汚いのか」と筆者が尋ねられたら、「きれいなメディア工作グループ」あるいは「汚い勉強会」と答えることくらいしかできない。

 ただ、ひとつ、筆者として、きっぱりと言えそうなのは、三宝会は、「平成憲政史」を(きれいなのか、汚いのかはさておき)大いに歪めたということだ。この「大きな歪み」を抱えたまま、あと数ヶ月で「平成憲政史」は幕を閉じることになる。

文/明坂圭二



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA