手ぶらで缶コーヒーを買う時代到来?顔認証自販機に挑むダイドードリンコ

清涼飲料水メーカーのダイドードリンコ株式会社(大阪市北区、高松富也代表取締)が国内初の自販機での顔認証決済の導入に向けた実証実験に取り組んでいる。事前に顔写真とクレジット情報、パスコードを登録しておけば、手ぶらで缶コーヒーなどの清涼飲料水を自販機から顔認証で買うことができるというものだ。財布がなくても買えるので便利ということだが、小銭や電子マネーで買える自販機はすでに十分便利ではないか?顔認証に挑むダイドードリンコの狙いを探った。

ダイドードリンコが実証実験を行っている顔認証決済の自販機=東京都港区芝浦のダイドードリンコ東京オフィス

国内に約28万台、自販機をメインにビジネス

顔認証決済自販機の実証実験はダイドードリンコの本社や東京オフィス、関連会社等で行われており、利用者は社員が中心だ。一般的な自販機に簡易なモニター画面がついていて、顔認証で購入する時はモニターの画面をタップすると自分の顔が撮影される。認証されるとパスコードの画面に切り替わるので番号を打ち込み、その後は従来と同じく欲しい飲み物のボタンを押すと品物が出てくるといういたってシンプルなものだ。現金の投入口もあり、現金で買うこともできる。

ダイドードリンコの自販機はこれまで全国に約28万台設置されていて、その売り上げが同社の国内の売り上げの8割を占めているという。「自販機をメインにビジネスをしていますので、自販機のイノベーションは常に重要なテーマなのです」と同社自販機営業企画部機材開発グループの古門義浩さんは言う。おしゃべりをする自販機やラッピング自販機などオリジナルな自販機がダイドードリンコによってつくられてきた。清涼飲料水メーカーの顔と自販機の機能を開発して売り上げに結び付ける2つの顔がダイドードリンコにはある。

そんなダイドードリンコの自販機の機能開発などを担っているのが自販機営業企画部機材開発グループだ。今回の顔認証決済自販機も同グループの古門さんが提案した取り組みだという。なぜ顔認証を自販機に導入しようと思ったのか?自販機のイノベーション」によって、「自販機をより身近で生活に役立つものにする」ことが同社の思いだが、顔認証に着目したきっかけの一つに東京オリンピックがあったという。「東京オリンピックは残念ながら延期となってしまいましたが、選手や関係者の入退場に顔認証を導入することが報道され、オリンピックに向けて空港も顔認証システムを導入するといった記事を見て顔認証が世の中に広がるのではないかと思ったのです」。生体認証には指紋や静脈など様々なものがあるが、東京オリンピックに向けたインフラ整備の中で顔認証が採用されていることから顔認証が今後、広がっていくのではないかとの思いを強くしたという。

「東京オリンピックが顔認証決済自販機を提案するきっかけになった」と話すダイドードリンコ自販機営業企画部機材開発グループの古門義浩さん

NECの技術を採用、まずはオフィスや工場から

とはいえ、すでに小銭や電子マネーカードなどで簡単に買える自販機。そこにことさら顔認証を導入する必要があるのだろうか?外出する時は大抵、財布やカードを持っているし、手ぶらで缶コーヒーやジュースを買うシチュエーションってそんなにある?という疑問もわく。そんな疑問に対して古門さんはこう話す。

「我々がターゲットとしているのは、まずはオフィスや工場。食品メーカーや薬品メーカーなど技術的にクローズのところだと所持品の持ち込みがNGという場所が結構あるのです。そうした場所は、手ぶら購入できる顔認証決済自販機は親和性が高く、財布やスマホをわざわざロッカーに取りにいく必要がないということで利用していただく方のお役に立てますし、自販機を設置していただく工場やオフィス側にも安心して設置していただけると考えています」

今回のダイドードリンコの顔認証決済自販機にはNECのテクノロジーが使われている。NECはアメリカ国立標準技術研究所(NIST)が行っている顔認証のベンチマークテストで5回世界1位を獲得しており、その精度の高さは世界的な評価を得ている。NECは顔認証を企業に積極的に導入しようとしており、「顔認証ソリューションforオフィス」という戦略を展開している。これは会社での様々な認証、例えばオフィスへの入退室や端末機器へのログオン、プリンター出力などその都度発生する認証をすべで顔認証によって統一してしまおうというものだ。そうすればいちいち行う認証の操作を省略することができ、セキュリティは確保することができる。

オフィスでの顔認証が広がれば、オフィスに設置されている自販機も必然的に顔認証の自販機にとって代わるだろう。顔認証が企業のオフィスや工場で浸透すれば、地域社会に広がり、やがて日本の社会全体に広がっていくかもしれない。ダイドードリンコの実証実験は、顔認証テクノロジーが社会に浸透していくことを見越した取り組みとも言える。ダイドードリンコは実証実験後、来年1月末以降、顔認証決済自販機を実践的に投入し、2年間で1000台の設置を目指すとしている。

                      (フリーライター 三好達也)

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