ネット炎上の洗礼を受けたラブライブ「聖地」

 「芸能人や政治家も巻き込んでSNSが炎上するのを目の当たりにしてとても驚きました」と話すのはJAなんすんの職員。JAなんすんは沼津市を中心とした静岡県東部地域の農業協同組合だ。JAなんすんの倉庫には今、人気アニメ「ラブライブ¦サンシャイン¦¦」のキャラクター、高海千歌(たかみちか)のパネルが“眠って“いる。

6000人から84000

 ラブライブ¦サンシャイン¦¦はスクールアイドルを目指す9人の少女たちが目標に向かって成長していく姿を描いたアニメ。沼津市の内浦地区が舞台となっており、内浦の風景や建物、沼津市街の光景などがリアルに描かれていることからファンが“聖地巡礼“と称して内浦や沼津市街を訪れている。内浦にある観光案内所「三の浦総合案内所」はアニメにも登場する施設だが、沼津市によるとこの観光案内所の訪問者数は2014年度には6000人程度だった。ところが、2016年度に5万6000人と急増し2017年度には8万4000人に達した。ラブライブの人気の広がりとともにファンがドッと訪れるようになったのだ。

 これまで人気アニメというと大手メディアが独占的に配信するのが一般的だったが、ラブライブは特定のテレビ局や出版社に依存せず、様々なメディア展開をして人気を広げてきた経緯があるようでラブライブの情報を発信している公式ツイッターは「オールメディアで展開するスクールアイドルプロジェクト」と紹介している。YouTubeにも「ラブライブ¦公式チャンネル」があり、作品をYouTubeで配信もしている。ファンはネットで情報を共有しアニメとファンが醸成する世界観がネットで拡散され、それがさらなるファンの獲得につながっているようだ。ネットで醸成されたラブライブの世界観が現実世界とつながる「場」が内浦であり、沼津なのだ。

 内浦に行くとラブライブの登場人物の人形を手にした若者の姿を見かける。アニメに描かれている場所で人形をかざしながらスマートフォンで撮影をしてSNSで発信するのだ。海外から訪れる人もいてインターネットによる人気の広がりが実感される。地元は当初、観光客とは趣が異なる若者の訪問に戸惑いを抱いたようだ。しかし、想像を超える人が訪れ、地域経済に少なからぬ影響を与えることが明らかになり、次第に地域がラブライブの世界に寄っていくようになった。

段ボールに書かれた寿太郎って何?

 沼津市街にはラブライブのキャラクターを描いたパスやタクシーが走るようになり、作品にちなんだ料理やカフェも登場。商店主らはラブライブの勉強会を開き、夏祭りにはラブライブの声優が参加するようになった。沼津市の広報誌は誌面を大きくさいてラブライブの特集記事を載せ、官民一体となってラブライブとそのファンへの取り組みが図られてきた。JAなんすんの取り組みもそうした地域の取り組みの一環の中にあった。

高海千歌のイラストが描かれている寿太郎みかんの段ボール箱

 「主人公の高海千歌はミカン好きな少女として描かれています。作品に『寿太郎』と書かれた段ボール箱が登場するのですが、寿太郎の意味がわからないファンの間で寿太郎って何?と話題になったのです」とJAなんすんの職員は説明する。寿太郎は内浦と隣接する西浦地区で主に栽培されているミカンの品種だが、そのことを知らないファンの間で作品に登場する寿太郎の文字の入った段ボール箱はなんだ?と話題となり、それが寿太郎という品種のミカンの段ボール箱だとわかると、今度は寿太郎ミカンへの関心が高まった。こうした経緯を経て2016年度の冬季からJAなんすんは寿太郎ミカンの段ボール箱にラブライブのキャラクター、高海千歌のイラストを入れるようになり、今季からは高海千歌を寿太郎ミカンの産地、西浦の「みかん大使」に“抜擢“、さらなる西浦の寿太郎ミカンのアピールに乗り出したのだ。

 スクールアイドルを目指す少女が地元特産品のPR大使に任命されるというアニメのストーリーと現実が交錯するかのような展開にラブライブファンやメディアの関心も高かった。ららぽーとは三井不動産商業マネジメント株式会社が全国で展開している商業施設だが、昨秋、沼津市内に出店しラブライブとのコラボグッズを販売し店舗チラシにラブライブが登場するなどその戦略に積極的にラブライブを起用している。高海千歌の西浦みかん大使の任命式は2月12日、ららぽーと沼津店で行われ、その様子は地元の新聞やテレビをはじめマスコミに取り上げられ、ネットで配信された。ところが任命式に登場したパネルに描かれている高海千歌の全身を描いたイラストをめぐり関係者が想定していなかった「クレーム」がネット上で湧き起こったのだ。JAなんすんによると、このイラストは従来のイラストとは別に新たに描かれたものだという。

ミカンのおいしさ伝えたかっただけ…

 予兆は昨秋すでに起きていた。日本赤十字社が献血を呼びかけるポスターに起用した人気コメディの漫画に対し、胸を強調した女性が描かれていて公共空間のポスターとしてふさわしくないとの声がSNSで上がり、表現の自由か、セクハラかをめぐりネットが炎上するという出来事があった。西浦みかん大使の高海千歌のパネルに対してもスカートの短さや透けているような描き方がされているなどとして問題視する声が上がり、日赤の献血ポスターを契機にネット上で繰り広げられている「論争」が再燃したかっこうだ。

 「我々の思いはミカンのおいしさや産地をPRして多くの人に知ってもらいたいということだけなんです。それ以外のものは何もない。それはアニメの会社も同じだと思います」とJAなんすんの職員は言う。高海千歌の全身を描いたパネルは任命式が行われた2月12日からららぽーと沼津店で展示されていたが2月16日に撤去された。賛否両論があることから関係機関と協議し撤去することを決めたという。高海千歌のパネルをめぐる一連の経緯は、今や地域の取り組みにおいてもネット動向を無視することができないことを如実に示した出来事だったとも言える。

(内藤昌)

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