ルポライター安田峰俊さんが見た香港デモ「インターネットのオフ会的に行われている」

 警察と激しい攻防を繰り広げている香港デモ。昨年11月の区議会選挙で民主派が勝利を収めたこともあり現在は鎮静化しているように見えるが、予断を許さない情勢だ。『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』(KADOKAWA、2018年)などの著書で知られる安田峰俊(やすだみねとし)さんは香港デモを現場でつぶさに取材してきた。新進気鋭のルポライターに香港デモはどのように映ったのか?講演会の内容を一部紹介する。

香港デモについて講演するルポライターの安田峰俊さん=静岡市内

 「私は香港デモに対してかなり是々非々なんです。少なくともデモ隊の主張を全面的に賛同する気にはなっていなくて…。かといって中国政府を支持するわけでも香港警察を支持するわけでもありません」―静岡市内で開催された講演会でそう話した安田さん。講演ではデモ隊が地下鉄施設の大きなガラスを破壊する映像も流し、その映像の中には安田さんの「恐い、恐い」という音声も記録されていた。デモ隊のすべてに賛同しているわけではないというのは、デモ隊が地下鉄や商業施設を暴力的に破壊する様を実際に見て感じた率直な気持ちなのだろう。

 逃亡犯条例改正案への反対に端を発した香港の民主化要求デモは昨年6月までは平和的に行われていた。しかし、デモ隊に警察が催涙弾を打ったことで大衆の怒りが沸騰し6月16日には主催者発表で200万人規模のデモへと発展した。7月には元朗駅でデモ参加者らが白いシャツ姿の男たちに襲撃される事件が発生し、平和的なデモから破壊活動を伴う激しいデモへと変容していった。「8月の終わりから9月にかけて勇武派といわれる過激な勢力の中の一部の人がかなり活発な破壊活動を行うようになった。それが時間とともに激化していった」と安田さんは言う。

 合法的な平和デモはリベラル派の連合組織といえる民間人権陣線という団体が中心になって行われているが、警察官とやりあう激しいデモには代表となるリーダーは存在しないという。「実際はなんらかの意思決定機構くらいは存在しているのではないかと私は想像しています。とはいえ明確なリーダーはいません。インターネットのオフ会的に行われている部分が多分にあります」。1人1人がメッセージを暗号化してやりとりするSNSのテレグラムを介してデモの総合意思的なものにつながってデモをやる、そういう方式なのだという。その大きな特徴は拠点を確保せず、「ある程度戦うとジワジワと下がっていって5キロくらいにわたり警察と追いかけっこを続けて最後、流れ解散というのが決まったメニューになっていた」というのだ。

講演では銃口を向ける香港警察の写真も紹介された

 デモは、最前線に一番強そうな人たちがいて、その後ろに火炎瓶を投げる人たちと救援する部隊、催涙弾に三角コーンをかぶせるなどして鎮静化する部隊か続き、ここまでが「本気の人たち」だという。その後ろに「普通の勇武派」がいる。彼らはガードレールやバス停などをたたいて威嚇し、道の敷石を剥いで投石用の石をつくって前の部隊に送るなどしていた。デモ隊の真ん中には進めとか下がれと指示する旗持ちの人、そして最後尾にレーザーで攻撃する人たちがいるのだという。「見ていると非常にシステマティックな感じがする。統率するリーダーはおらず自発的なボランティアなのになんでこんなにシステマティックなのかは謎」だということだが、「香港は先進国社会なので、そうした社会において自発的な運動を多数の人が行った場合、なんだかんだ結構統制がとれるのではないか」と安田さんは分析している。

 香港では2014年に香港行政長官選挙をめぐり民主化を求めるデモが起き、警察に雨傘で対抗したことから雨傘運動と呼ばれているが、この時のデモは市街地を占拠したものの警察によって排除されて失敗に終わった。今回のデモでは市街地を占拠せずにゲリラ的に行われていて、こうしたデモの手法は雨傘運動の教訓にもとづくのではないかという。また、デモを行っている若者の多くが香港の独立を訴える本土派もしくは香港のことは香港が決めるという自決派で、世代間の考え方の違いによる対立が職場や家庭などで起きていて社会的な分断が深刻化しているという。

 商店や地下鉄を破壊する暴力的な活動をしている人たちに民主化を求める崇高な精神は感じられず不快感すら感じたという安田さんだが、そんな暴力的な活動が区議会選挙の前後にピタッと止まったことに驚きを感じたという。「現場レベルでは喜んで破壊している部分もあるのだけれど、全体の意思においては統制という言葉はふさわしくないかもしれませんが、極めて自制しているということを発見したのは大きな驚きだった」と言う。香港理工大学に立てこもった多くの若者が逮捕された一方、区議会選挙で民主派が大勝利し、現在、過激なデモは鎮静化している。しかし、最近になって香港の病院などで相次ぎ爆弾が見つかる事件が起きているという。「多くが逮捕され少人数になった勇武派の人たちが爆弾闘争を起こすのではないか」―安田さんは今後のさらなる展開を懸念している。                         

(編集部)

安田峰俊(やすだ・みねとし)/ルポライター 1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部(東洋史学専攻)在学中に中国広東省の深圳大学へ交換留学。広島大学大学院文学修士課程修了。2018年から立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。著書『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』で第5回城山三郎賞、第50回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

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