戦略と戦術の違いとは何か?戦略という言葉を乱用する日本人への警告

エグル・ニュースのオピニオン欄、第一弾として書くのは、タイトルの通り、「戦略と戦術の違いとは何か?」という啓発記事だ。意見の発表とも言える。

英語では、戦略はストラテジー。戦術はタクティクスとなる。

ともに軍事用語ではあるが、意味合いがはっきりと異なる。

漢字文化圏の悩みところではあるが、戦略と戦術はともに似た熟語であるため、そのまま同じ意味合いとして多くの人が受け止めているのが現実だ。

strategy(ストラテジー)とtactics(タクティクス)。

この違いを説明するのに便利なのが戦史だ。太平洋戦争を例に説明しよう。

日本の「真珠湾攻撃」で、アメリカとの戦争が始まったことは、老若男女、戦史には関心を持っていない方でもご存知だと思う。日本の空母機動部隊が奇襲攻撃を行った話だ。

次に来るのが、その半年後に起きた「ミッドウェイ海戦」。日本の大きな敗北になった。空母を失ったのも痛かったのだが、それと同じくらい痛かったのは、神がかり的な技術を持ったパイロットをたくさん喪ったことだった。

この真珠湾攻撃とミッドウェイ海戦の間に、世間的には認知度が低い「珊瑚海海戦」という日米の海戦があった。歴史上初の、「空母 対 空母」の戦いであった。

ざっくりと説明する。

当時の日本海軍は、「米豪遮断」という作戦を立てた。アメリカ合衆国とオーストラリアの間にある海域を、日本軍が支配する海域にして、オーストラリアを孤立させるという作戦であった。

アメリカ軍は、100%ではなかったものの、既に、日本海軍の暗号解読に成功済み。日本海軍の「米豪遮断」を阻止しようとして、海域に空母を送り込んだ。伏兵である。海の伏兵という言い方もできそうだ。

「珊瑚海海戦」の結果を伝えよう。

空母と空母の戦いでは、アメリカ軍のほうがややダメージを与えられた敗北であった。

だが、「米豪遮断」という作戦を日本軍が諦めたという意味では、日本の敗北であった。

答えを言おう。

アメリカは、戦略(ストラテジー)で勝利をおさめたのだ。

日本は、戦闘結果という、戦術(タクティクス)では、やや勝利をおさめていたものの、本当の意味では大事な「米豪遮断」では、負けてしまったのだ。

ここだ。

以前も私は知らなかったので自戒を込めていうことだが、戦略と戦術という一文字違いで、本当に意味合いが変わるのだ。

なお、私の友人で、正しい言葉遣いで、戦略と戦術という言葉を使えているのは、元陸上自衛隊の人だけである。

亡くなった元外交官に岡崎久彦がいる。ウィキペディアからではあるが、語録を2つほど紹介したい。全面的にとまでは言わないが、私が尊敬する人物のひとりである。情報畑を歩んで来た人としては、ピカイチの人物で、「ベルリンの壁」崩壊の予言を的中させたことも岡崎久彦にはある。

★『戦略が良ければ、戦術の失敗は挽回できますが、戦略が悪いと戦術的に成功すればするほど傷が深くなります』

★『全ての戦略の基礎には、良質の情報と正確な情勢判断があります』

現代の日本人に警告を与えておく。

(再び、繰り返し自戒を込めていうのだが)皆さん、ちゃんと「戦略」(ストラテジー)と「戦術」(タクティクス)の違いを理解できていますか?

「戦略」という言葉の意味を分かっていないまま、平然と、「戦略」という言葉を現代ニッポン人は乱用していませんか?

分かってないにもかかわらず、「戦略」という言葉を使う経営者がうようよしていませんか? 著名人であっても、そうではありませんか?

書店には、戦略という言葉を使った本をやたらとみかけますし、物書きの人でも戦略という言葉を使っている人を見かけますが、私にいわせれば、「それ、戦術(タクティクス)の話にすぎないのに、平然と戦略だと言い張っている人がわりといますよ?」

以上のように指摘させてもらったが、無駄に、戦略という言葉が氾濫しているのが日本の現状だ。

岡崎久彦も述べているが、戦略に強くなるためには戦史に強くなることが大切である。

戦史となると、主に男性が関心を持つものだが、「ちゃんとストラテジーとタクティクスの違いを知るためには戦史なんですね」と女性の方で関心を持ってくれる人が現れるのならば、筆者としてもこれほど嬉しいことはない。

啓発の意味合いを込めたオピニオン原稿なのだから。

私の戦略観と戦術観をお伝えしておくと、戦略はペラ1枚。紙1枚だけで、さらりと書くものである。漢字の意味合いとしては、「計」。孫子の兵法でも、戦いの前段階で行われるものだとされている。戦術は、それほど大事なものではない。極論だが、戦術ではどれだけ負けても構わない。戦略で勝てればいいのだから。

最後に、ネットの辞書から「戦略」と「戦術」の意味を貼っておく。

せんりゃく

【戦略】

戦争・闘争のはかりごと。戦争の総合的な準備・計画・運用の方策。 「―を立てる」

せんじゅつ

【戦術】

戦闘を行う上の方策。転じて、ある目標を達するための方策。 「牛歩―」

辞書の意味より筆者が強調しておきたいのは、「戦史」の大切さだ。太平洋戦争中の「珊瑚海海戦」のウィキに興味を持つなり、他の戦史紹介サイトが増えてくれるなりすれば、筆者としてもこれほど嬉しいことはない。

みんなで、まるごと、卒業しようではないか。

分かっていないのに、戦略という言葉を使うことを――

文/明坂圭二

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