気を揉むJR東海…リニアの行方を左右する6月静岡県知事選

 6月3日に告示される静岡県知事選挙に現職の川勝平太知事が4選を目指して出馬をすることが確実になった。川勝知事と言えば、大井川の水問題を理由にリニア建設を頑なに認めないことで知られている。川勝氏が4選すればリニア建設は棚上げとなることは必至で、JR東海は大いに気を揉んでいるに違いない。

現職の川勝氏が4選出馬へ

4選を目指し出馬する意向の川勝平太静岡県知事

 川勝氏は「今、任を離れるのはきわめて難しい。無責任とすら思える」などと話して続投に意欲を示している。また、大井川流域の住民との会談では「南アルプスは守るという不退転の決意でいっしょにやってまいりましょう」などと話して引き続きリニア建設を認めない態度を鮮明にしている。JR東海は、東京・品川―名古屋間で2027年にリニアを開業する計画で工事に着手したが、南アルプス山中の地下にトンネルを建設する静岡工区については、静岡県が大井川の水量に影響が出る恐れがあるとして工事に同意しないことから着工できない状態が続いている。

 昨年はJR東海の金子慎社長が川勝知事と直接会談をしたほか、国は有識者会議を設置して静岡県とJR東海の「調整」に乗り出しているが話し合いは平行線をたどったままだ。静岡県や大井川流域では国の有識者会議が一方的な結論を出すことへの警戒感が広がっているようだ。リニア工事をめぐる静岡県の対応について、メディアからは「大井川のダムの中には放水管トンネルを使って山梨県側のダムに水を送り、富士川に放流しているケースがあるではないか」(ITmediaビジネス)という疑問や、「のぞみが停車しないことや富士山静岡空港の近くに新幹線の新駅設置を要望する静岡県に対しJR東海は否定的で、背景に長年にわたる静岡とJR東海との確執がある」(東洋経済ONLINE)などといった指摘や分析も報じられてきた。

対立の背景に「ポスト東京」の理念?

 川勝氏は京都出身で早稲田大学経済学部教授、国際日本文化研究センター教授、静岡文化芸術大学学長などの経歴をもつ。明治維新以降の時代を「東京時代」と呼ぶことを提唱しており、メディアとのインタビューでも「東京に都を移して、富国強兵で欧米と肩を並べて一生懸命背伸びしてやってきたときには、よかったかもしれないけれども、今は、それのマイナス要因が目立ち過ぎているということですね」(THE PAGE  2017年3月)などと話している。東京一極集中からの脱却を目指す「ポスト東京」を政治理念に持ち、今年の年頭インタビューでも「ポスト東京時代がコロナとともに始まった。静岡県だけでなく、都民に人気の高い長野や山梨県などと協力し、分散型の国土づくりをけん引したい」(中日新聞「川勝知事 新春インタビュー」)と話している。

 東京と名古屋、大阪という大都市圏を結ぶリニアは、川勝氏の言う「ポスト東京」と相いれるとは考えにくく、リニア問題は大井川の水問題を直接の要因としつつ、実は国土づくりをめぐる政治理念が微妙に反映しているように見える。2009年の初当選以降、堅実な選挙戦で3選を果たしてきた川勝氏だが、4選に向けて不安材料がないわけではない。学術会議委員の政府の任命拒否をめぐり「菅義偉という人物の教養のレベルが図らずも露見した」などと発言して批判を受けるなど、その発言に疑問が寄せられるケースも目立ち、また、後ろ盾であるスズキ自動車の鈴木修会長が退任することから、こうした情勢の変化が選挙戦にどのような影響を及ぼすのかは未知数だ。

 とはいえ対立する自民党はいまだ候補擁立に至っていない。擁立を断念し対立候補の推薦に回ったものの県連内の足並みが揃わなかった前回知事選を彷彿させるような展開となっており、川勝氏の動向以上に自民党の不甲斐なさぶりが目立っている。

(三好達也)

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