新型コロナ変異株 「市中感染」はどのようにして発覚したのか?

 新型コロナウィルスの変異株。渡航歴がなく感染源不明の感染者が判明したことから市中感染が疑われる事態となっている。しかし、厚生労働省は変異株の感染が国内で面的に拡大していることはないという。毎日多くの新型コロナウィルスの感染者が判明している状況だが、変異株の感染はどのように把握されているのだろうか? 変異株感染の経緯についてまとめた。

イギリスで確認されている新規変異株VOC-202012/01のウィルス粒子の顕微鏡画像。国立感染症研究所が分離に成功した=国立感染症研究所ホームページより(https://www.niid.go.jp/niid/ja/basic-science/virology/10097-virology-2021-1.html)

クリスマスに発表された最初の感染

 国内で初めて変異株の感染者が報じられたのは昨年のクリスマス、12月25日のことだった。羽田空港と関西空港の検疫でイギリスから到着した男女計5人が変異株に感染していたことを厚労省が発表した。5人の日本への到着は12月18日、20日、21日で羽田が2人、関空が3人だ。いずれも空港検疫で明らかになったので水際で阻止した状況と言える。

 しかし、翌26日には12月中にイギリスから帰国し、その後、発症して都内の医療機関に入院していた男性とその濃厚接触者の女性が変異株に感染していたことが明らかになった。変異株はイギリスで感染が拡大し、その後、南アフリカやブラジルでもタイプの異なる変異株が見つかっている。イギリスでの変異株の感染拡大を受けて東京都が新型コロナウィルス感染者の中から直近でイギリスから帰国した人や滞在歴のある人を対象に変異株感染について調べ、その結果、感染が明らかになったのだ。変異株がすでに国内に持ち込まれていることが判明した。

 それから市中感染が疑われる事案が発表されるに至る今年1月18日までに厚労省が明らかにした変異株の感染は全部で41件。うち34件は空港検疫で判明したもので、他は都内で6件、兵庫で1件だった。都内と兵庫で判明したケースは海外からの帰国者や滞在歴のある人、その濃厚接触者だ。この時点までは変異株の感染者はいずれも国外で感染したか、国内で感染したケースでも国外で感染した人との濃厚接触者に限られるとみられていた。ところが、どのようにして感染したのかわからないケースが出てきた。それが1月18日に発表のあった静岡のケースだ。そもそも感染ルートが不明な変異株の感染者をどのようにして把握するに至ったのか?

感染疑いとはどのような状態なのか?

 1月18日の厚労省会見によると、変異株の感染が疑われる人物がいて、その人との濃厚接触者を調べた結果、静岡県内に居住する20代女性が浮上。この女性と女性の濃厚接触者である40代女性について検査をしたところ変異株の感染が明らかになったという経緯のようだ。調査は厚労省のクラスターチームが静岡入りして行ったようだが、最初のきっかけとなった変異株の感染疑いのある人物は静岡県外の居住者だという。なぜこの人が変異株に感染している疑いのあることがわかったのか? 厚労省によると、現在、一部の自治体で変異株のスクリーニング検査が実施されているという。ゆくゆくはこの検査を全国の自治体で実施できるようにする方向だということだが、今のところ限られた自治体で試験的に運用されている。

 東京都では都健康安全研究センターにPCR検査のために持ち込まれた検体のうち、陽性となった検体についてはすべて変異株のスクリーニング検査を実施している。これは厚労省が言う「一部自治体で試験的に運用している変異株の検査」だと考えられる。遺伝子変異の有無をスクリーニングして調べる検査のようだが、この検査で変異株の感染有無は確定できず疑いがあることまでしかわからない。スクリーニング検査の結果、疑いが出た検体については国立感染症研究所に送ってゲノム解析をする必要がある。東京都によると1月22日までのスクリーニング数は1453検体。うち1例において変異株感染が確定し1月22日に発表された。感染が確認されたのは都内在住の10歳未満の女児で、厚労省発表によると新型コロナウィルスを発症した40代男性の濃厚接触者だという。女児も男性もイギリス滞在歴はなく市中感染が疑われる2例目のケースになった。

 厚労省「面的な感染拡大は確認されていない」

 東京都によると都健康安全センターにPCR検査のために持ち込む検体は、各保健所が判断するもので、持ち込まれた検体のうち陽性となった検体はすべて変異株のスクリーニング検査をしている。都はスクリーニング検査で変異株の感染疑いの出た検体がこれまでどのくらいあったのか明らかにしていないので不明だか、検体がゲノム解析をするのに十分な状態でないと感染疑い止まりで変異株に感染しているのかどうか確定することはできない。静岡で感染が判明したケースの端緒となった感染疑いの人が都内居住者なのか不明だが、自治体のスクリーニング検査で変異株感染の疑いが出たものの検体が十分でなかったためゲノム解析で変異株の感染有無が確定しなかったケースと考えられる。

「英変異種 県内3人確認」と1面トップで報じた地元紙

 しかし、変異株感染の疑いは残ることから厚労省で追跡調査を実施し静岡に居住する20代女性に辿りついたのが経緯のようだ。1月18日の厚労省発表では20代女性の濃厚接触者の40代女性のほかに、もう1人静岡に居住する60代男性の変異株感染を明らかにしている。この男性は2人の女性とは接触がなく、海外渡航歴もないという。この男性の変異株感染はどのようにして判明したのだろうか?

 追跡調査では感染疑いのある人物の濃厚接触者として静岡の女性が判明した経緯だが、厚労省などによれば、感染は発症の時期から推定する限り感染疑い者の方が後のようだ。つまり、静岡に居住する女性が変異株に感染し、その後、濃厚接触者である感染疑い者が感染した可能性があるという経緯のようだ。20代女性と40代女性は濃厚接触なので、いずれか一方が感染したと考えられるが、最初の感染がどこにあるのかわからない。地域に変異株感染が拡大している恐れも否定できないことから厚労省の追跡チームが女性の居住する地域の新型コロナウィルス感染者の検体について調査し、その結果、女性とは無関係の60代男性の変異株感染が判明した。その後、この男性の濃厚接触者についても変異株の感染が判明している。

 変異株の感染は水際対策の空港検疫で見つかる中、イギリスなど海外から入国し、その後、新型コロナを発症した患者などからも確認されるようになった。そして今度はどのようにして感染したのかわからない感染が点のように出現しつつある。「面的な広がりは確認していない」という厚労省。感染が確認された静岡県内のとある「地域」の監視を強化している。

(編集部)

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