元大学学長や過激派も…日本学術会議声明で「お墨付き」を得た軍事研究反対闘争

 新たな会員候補6人が政府に任免されなかった日本学術会議(梶田隆章会長、東京都港区)。2017年3月に「軍事的安全保障研究に関する声明」を出し、その声明の中で2015年度に発足した防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度について「政府による研究への介入が著しく、問題が多い」などとして大学や研究機関に同制度への応募を控えるように呼びかけた。こうした日本学術会議の声明を背景にこれまでどのようなことが行われてきたのだろうか?

安全保障技術研究推進制度に採用されたものの研究を途中で辞退した北海道大学

 すでに報じられているように、北海道大学は水の抵抗を減らし船の燃費軽減と高速化を図る研究を安全保障技術研究推進制度に応募して2016年度から行っていた。しかし、学術会議の声明を受けて同大学が2018年3月に同制度を辞退したため研究資金が得られなくなってしまった。北海道大学は当初、安全保障技術研究推進制度に応募をして研究をすることに問題があるとは考えていなかったが、日本学術会議の声明後、態度が変わり2016年度からスタートしていた研究を途中で辞退する決定をした。当時、辞退のニュースは北海道大学が自主的に判断をしたかのように報道されたが、実際は、大学に対し「説得工作」ともとれる運動が行われ、こうした圧力も受けて北海道大学は辞退に追い込まれた。安全保障技術研究推進制度に応募をする大学や研究機関に対する反対運動に取り組み、傘下団体とともに圧力をかけてきたのが軍学共同反対連絡会という組織だ。学術会議の声明は軍学共同反対連絡会やその傘下団体の取り組みに御墨付きを与えたものだと言える。

 軍学共同反対連絡会は2016年9月に設立され現在、名古屋大学名誉教授の池内了氏や立教大学教授の香山リカ氏らが共同代表を務めている。研究者にとどまらず大学教職員組合や市民団体、労働組合などの団体や個人が参加しており、安全保障技術研究推進制度に応募をする大学や研究機関に対する反対の署名活動や学長への面会、抗議行動を行い、同制度への応募を断念させる取り組みを繰り広げてきた。こうした活動の背景には、2015年に安倍政権下で可決・成立した平和安全法制をめぐる政治的な対立がある。2015年度からスタートした安全保障技術研究推進制度に対するネガティブキャンペーンは国の安全保障政策さらには憲法改正に反対する勢力によって担われ、日本学術会議の声明はその活動を正当化したものといえる。

元大学学長や中核派メンバーが登壇して行われた中日新聞後援の軍事研究反対シンポジウム=2017年2月

 日本学術会議が声明を出した前月、2017年2月に国立大学構内で開催された中日新聞が後援する軍事研究をめぐるシンポジウムでは、元宇都宮大学学長で同大名誉教授の田原博人氏と極左過激派組織、中核派メンバーで当時、全日本学生自治会総連合委員長だった斎藤郁真氏が並んで登壇し、市民や学生を前に大学での軍事研究反対をテーマにした講演やパネル討論が行われた。このシンポジウムについて軍学共同反対連絡会は同会が発行するニュースレターで取り上げ、「市民と大学人の連携、共同の動きとして注目されるものです。このような動きが、全国の各大学ごと、地域ごとに開催されることが今もとめられています」と絶賛した。

 軍学共同反対連絡会とその傘下団体の反対運動によって、大学は安全保障技術研究推進制度への応募を控えるようになり、一方で同制度に応募をした筑波大学に対しては署名や抗議行動など執拗な反対運動が行われている。毎日新聞などのメディアも筑波大学を批判する記事を掲載して反対運動を援護してきた。また、軍学共同反対連絡会はJAXA(国立研究開発法人宇宙航空開発機構)にも乗り込み、JAXAが軍事研究に協力し軍事産業に加担していると批判のボルテージを上げてきた。軍学共同反対連絡会によると、昨年12月にはJAXA東京事務所に共同代表の池内氏自身が出向いて申し入れをし、その際は共同通信と日本共産党機関紙、しんぶん赤旗の記者が同席して取材をしたという。

 大学や研究者の現場では、日本学術会議の声明を御旗に軍事研究反対運動が展開され、大学当局が安全保障技術研究推進制度への応募をとりやめたり、軍事研究に反対する見解を表明すると朝日、毎日、東京新聞などがこぞって報道し、安全保障技術研究推進制度や国の安全保障政策、政権に対する批判が広がっているイメージを社会に広げる取り組みがなされてきた。しかし、実際は学術会議という権威と執拗な反対運動に少なからぬ研究者や大学関係者は辟易しており、多くの若い研究者は安全保障技術研究推進制度に賛同しており、日本学術会議の言う「研究への著しい政府の介入」についても疑問視されている実態がある。

                               (編集部)

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